産学行政連携支援

研究会の歩み

発端

 21世紀の名古屋をになう新しい都市産業の振興をはかるため、名古屋市では平成6年に「世界都市産業会議」を開催した。その折、名古屋が重点的かつ政策的に取り組む分野として6つの新産業分野を検討したが、その中の1つが「エンバイヤメント(環境創造)産業」である。
 この国際会議の基調講演で、吉川弘之東京大学総長(当時)から、地球環境を保全するために、モノづくりの盛んな名古屋地域こそが、全国に先駆けて、資源循環工程をあらかじめ組み込んだ逆生産システムに取り組んでほしい、という提案があった。
 吉川総長の提案を受けた名古屋市では、名古屋大学と相談し、環境創造産業の振興のうち、テーマを逆生産システム(IMS、インバース・マニュファクチャリング・システム)に絞った研究会組織を立ち上げることとし、架谷昌信名古屋大学工学部長(当時)に研究会の会長就任を要請した。

研究会の発足

 平成7年6月に第1回設立記念研究会を開催。当初は、社会的に定着していなかったIMSの普及啓発と、先進事例を紹介するセミナーを継続的に開催した。また、会員企業の取り組み状況、困り事などに関するアンケート調査も実施した。
 研究会は、その後、おおむね年3回程度、企業見学会も年3回程度開催しながら現在に至っている。こうした地道な活動を通して、しだいに研究会の人的ネットワークが構築されると同時に、企業の取り組みも本格化していった。

シンポジウムの開催と事例研究発表の定例化

 平成8年度からは、研究会の取り組みをより大きくするために、シンポジウムを開催することにした。当時、環境問題の重要性をテーマにしたシンポジウムは全国各地で行われていたが、IMSにテーマを絞ったシンポジウムとしては、全国初の試みだった。なお、初回の基調講演者は、この仕組みを提唱した吉川弘之東京大学総長(当時)だった。その後、シンポジウムは毎年開催することになった。
 平成9年度の第2回国際シンポジウムからは、会員企業の取り組み状況を論文にした事例研究発表を公募することとし、優秀作品を表彰している。このプログラムは、研究開発部門はもとより、生産現場からの論文も対象にしたことから、これまで企業の中で目立たない活躍をしていた環境部門の取り組みを顕彰するものとして、多方面で歓迎された。

大学における研究拠点の整備

 環境問題は現代産業社会を考えるキーワードの1つであるが、生産システムという点にテーマを絞ったことが、モノづくりの盛んな名古屋地域の産業特性にかなったものとして、多方面から評価された。こうした評価は国の認めることとなり、平成8年度に名古屋大学に難処理人工物研究センターが全国で唯一設立されることになった。引き続いて、平成9年度には、名古屋工業大学大学院にも都市循環システム工学専攻が発足した。なお、難処理人工物研究センターは、現エコトピア科学研究所に引き継がれている。

普及啓発から研究開発へ

 研究会の活動が活発化してくると、普及啓発のための研究会や見学会だけでなく、研究会の有志がワーキンググループを組織して、研究開発に取り組むこととなった。平成8年度には、アンケート調査の結果、会員企業が一番困っていた無機汚泥のリサイクルラインの構築をテーマにしたワーキンググループを組織した。しかし、この取り組みは資金不足から座学的な研究になったが、その次は、環境をテーマにした国際博覧会を意識した、より本格的な研究開発を立ち上げようということに発展した。

中小企業の参入はじまる

 研究会の発足後、ISO14000シリーズの認証に取り組む企業が拡大してきたが、なんといっても大企業が中心だった。このような中、研究会会員の情報系ベンチャー企業と廃棄物処理業者が連携して、使用済みパソコンのリユースを行う株式会社ジャスコム(名古屋市中川区の名古屋ビジネスインキュベータnabi/金山内)が設立された。また、同じく会員企業の中から、中部地区で初の廃家電のリサイクルを行う株式会社グリーンサイクル(名古屋市港区)が設立された。なお、両企業の設立はともに平成10年度。その後、会員企業が中小企業の環境ビジネスを支援する企画会社株式会社フルハシ環境総合研究所を平成13年度に設立している。

地域結集型共同研究事業のスタート

 研究会の主要メンバーが集まって、愛・地球博(2005年開催)を意識した国の提案公募型研究事業への提案に向けた取り組みを進めていた。平成11年度に、科学技術庁の「地域結集型共同研究事業」に採択されることとなった。テーマは「循環型環境都市を形成するための基盤技術の研究開発」であり、その中の1つがIMSである。
 この研究開発は、愛知県と名古屋市が提案主体となり、その研究の一部(「都市廃棄物の資源化・再利用化技術の研究開発」)が、志段味ヒューマンサイエンスパーク内の先端技術連携リサーチセンターの一角で始まったのは平成12年度のことである。
 なお、この研究成果は、愛・地球博の新エネルギー設備に生かされた。また、地域結集型共同研究事業が終了した研究設備は、平成16年度に採択された経済産業省の「地域新生コンソーシアム研究開発事業」の「マイクロ波を利用した木質バイオマス液化プロセスの開発」に生かされた。

経営者が集まる環境パートナーシップ・CLUBの設立

 環境に対する企業の意識の高まりや、この研究会の取り組み事例も参考にして、中部通商産業局や中部財界が呼びかけて、平成11年度に環境パートナーシップ・CLUB(略称EPOC)が設立された。
 EPOCでは、社会貢献、国際交流、セミナー、交流会、フォーラム、研究会、視察・調査、出版事業などを行っている。なお、研究会が技術者や研究者を対象としているのに対して、EPOCは経営者が主たる対象である。
(個別テーマを追求する研究会の組織化)
 研究会活動が評価され、また情報発信していく中で、個別、具体的なテーマに取り組もうという動きが出てきた。その一つが、名古屋市内と全国最大の瓦産地である三河の業者が連携した「瓦3R推進研究会」(平成13年度)である。当初は、見学会や勉強会からスタートしたが、サイエンスパークで名古屋工業大学と連携して、産学共同研究を展開した。
 また、中古パソコンの循環利用を社会貢献に結びつけようとする「ITエコサイクル研究会」(平成14年度)は、同年度、NPO法人ITエコサイクル推進機構の設立に発展し、平成16年度からは名古屋市の中高齢者向け情報化推進事業(事業名:らくらくパソコンe−なもくん開発事業)に協力した。
 さらに、名古屋地域で燃料電池に関する産学官の取り組みが活発になり、新しい産業がおきることを期待して「燃料電池応用研究会」(平成15年度)を設立した。研究会では独創的なアイデアの実現に向けた試作品づくりを検討した。
 そのほか、発電、鋳造、精錬、製鋼などのプロセスで、大量に排出される燃焼灰、スラグ、廃砂あるいは貝殻など、付加価値の低い無機材料をより付加価値の高いリサイクル方法や市場を検討する「低付加価値無機材料循環利用研究会」が平成15年度に設立された。
 また、木質系バイオマスの有効利用を促進するため、バイオマス発電、木粉製造技術、木粉温ガス化、木粉液化、生分解性プラスチック、成形加工など、多様かつ複合利用技術に関する情報交換を行う「木粉研究会」を、平成16年度に設立した。
 さらに、平成17年度には、下水道分野を始めとする水に関わる諸課題に対する解決策を探るため、「水と未来の勉強会」を設立した。勉強会では、官学中心で勉強会を開催し、ラボ研究を重ねた結果、平成19年度に「水と未来の研究会」と名称変更し、下水汚泥から資源回収をおこなう官学共同研究に取り組んだ。
 平成18年度からは本研究会の名称をこれまでの「資源循環型生産システム研究会」から「資源循環型ものづくり研究会」と改称し、研究会の取り組み課題を、資源循環型生産システムから資源循環型の生産技術、材料技術、環境製品、製造プロセス、廃棄物処理プロセスの開発促進へと拡げ、新たな視点に立った活動を進めることになった。

低炭素社会の実現をめざして

 近年、注目されているのは低炭素社会,すなわちCO2の排出削減である。この命題に取り組むため、オーストリア及びドイツの製造現場における生産工程の効率化及び環境負荷の低減をはかる取り組みを調査し、名古屋地域のものづくり産業界が応用できる効率化モデルの確立と両地域間の環境技術でのビジネス交流をめざす「エコイノベーション研究会」が、平成20年度、JETRO名古屋貿易情報センターのRIT(Regional Industry Tie-Up)事業に採択された。
 また、将来の温暖化ガス排出規制強化に対応するため、炭酸ガス回収型エネルギーシステムの地域モデルを構築し、化学工学の視点から、次世代の技術開発をめざす「炭酸ガス回収型エネルギーシステム研究会」が、平成20年度、財団法人名古屋産業科学研究所のプロジェクトに採択された。この研究会の活動から、低品位バイオマスの高品位化・高機能化・高度利用技術を考える「高付加価値化を含めた低品位炭素の有効利用連携構築研究会」が平成21年度に設立された。
 さらに、今後研究要素の大きい新種の採油植物や藻類などのバイオ燃料を有効活用し、農学、化学工学、薬学など幅広い分野から、持続的な価値創出ができる新しいビジネスモデルを考える「バイオ燃料研究会」を平成21年に設立した。

臨海部で進むエコタウンと都市鉱山

 名古屋港の臨海部には大型の重化学工業が立地していたが、大規模工場の移転、あるいは転廃業などに伴い、立地企業の業種が変わってきた。そこに、グリーンサイクル、名古屋プラスチックハンドリング、USS、アビヅ、中部リサイクルといったリサイクル関連の企業が隣接して立地している。
 また、資源小国日本がこれから取り組む課題として、これまで一部の資源のみがリサイクルされ、ほかは廃棄されてきた使用済み小型家電のリサイクルと希少金属(レアメタル)の回収が注目され、「都市鉱山」として先駆的な取り組みがはじまった。
 研究会では、上記のようなリサイクル関連の企業、中間処理企業、一般廃棄物処理企業、同運送業、さらには金属精錬企業、大学、NPOなどと連携して「中部都市鉱山研究会」を設立し、資源循環型ものづくりから循環型社会づくりに向けて、第一歩を踏み出した。その結果、平成21年度に環境省及び経済産業省共管の「使用済み小型家電の回収モデル事業」に名古屋市及び津島市が採択された。

資源循環型社会をめざした新たな飛躍を求めて

 インバース・マニュファクチャリング・システムという言葉がまだ定着していなかった頃と比べると、大企業だけでなく、中小企業も環境問題に取り組むようになり、また、環境配慮型という消極姿勢から、資源循環型へとより積極的な姿勢が見られるようになった。さらに、バブル経済の崩壊後、日本経済の質的転換が求められている今日、環境を切り口にしたエコ・イノベーションとも言うべき流れが着実に定着していると考えられる。
 こうした取り組みに対して、研究会ではコーディネート機能を発揮して、事務局を引き受けたり、参加メンバーを募ったり、人や企業の紹介を行ったり、大学との連携を支援したり、国の提案公募事業に提案したりして、活動を支援している。
 平成24年3月2日の第2回国家戦略会議において経済産業大臣より提出された資料「新産業・新市場の創出に向けて」を読むと、今後の新産業・新市場の創出には「攻め」の対策が必要とされ、そのために「課題解決型産業」「クリエイティブ産業」「先端産業」という3つの産業が提起されている。この「課題解決型産業」のひとつとして「グリーン・イノベーション」が挙げられ、具体例として再生可能エネルギ-の導入拡大による市場創出やスマートコミュニティの推進などが示されている。資源循環型ものづくりはこうした動きに呼応するものとして今後ともその展開が期待されている。

資源循環型ものづくり研究会事務局
公益財団法人名古屋産業振興公社 研究推進部