春山 満氏講演会
「バリアフリー社会の創造と
ビジネスチャンス」
 進行性筋ジストロフィー症。筋肉細胞を崩壊させる難病中の難病で、治療法も進行を止める方法も解明されていません。24才の私にこの病気が発症し、現在は首から下の運動機能を失っています。
 小さな不動産会社を経営しておりました私に福祉分野に進出しようと思わせた大きなビジネスチャンスが、今から14年前にやってまいりました。難病を患った私が、家族と共に暮らし合っていくため、病院へ相談に行ったり、自分に合った杖や車椅子を作ろうと思って業者にも相談しました。しかし、そこで私を出迎えたのは驚くべき医療機関やサービスの矛盾でした。病院では、患者に対する応対があまりにも不親切なうえに、患者を馬鹿にしたような言葉づかいも平気で行われていました。手の力が無くても使える杖を作ろうと私がアイデアを出し、メーカーに杖づくりを依頼した時、最初は嫌な顔をしていたメーカーも、杖ができあがると、「この杖の販売権を譲って下さい。そんなニーズがあるとは思ってもみませんでした。」と言うのです。自分の車椅子を作ろうと思って病院に行ったときも、業者は私をブリキの固まりのような車椅子に乗せて前や後ろに30秒程こがせただけで、「どないですか。」と聞き、私が何も答えないうちに「はい、わかりました。」と言うだけでした。この業者のあまりに誠意のない応対に私が腹を立てていたら、車椅子に乗った患者さんが近寄ってきて私にこう言いました。「あんた、ぜいたくや。車椅子なんて2台、3台、4台と作って初めて自分の思うようなものに当たるんや。」と。
 この現場には、大きな二つの義務違反があるのを痛感しました。それは、サービスを供給する側は病院の窓口の声ばかりに耳を傾け、本当のお客さんである患者をお客さんと思っていない。また、消費者も使う側のニーズをきちんと供給側に伝えていないということです。私はここに、潜在的に望まれていながら提供されていない20世紀最後のビジネスチャンスを発見し、この産業界に参画してまいりました。
 私は、アメリカでテンポラリーアビリティという言葉を学びました。これは、健康な人もケガをしたり、女性は時には妊娠も経験するので、人生という長いレースの中で考えれば、健康なのはむしろ一時的なことかもしれない…という考え方です。誰が、いつ介護される側に回るかもしれないのです。現在、介護の必要なお年寄りが全国で230万人いると言われています。また、65歳以上のお年寄りが、人生の最後6ヵ月以上の寝たきり要介護を経験する人は既に50%を超しました。二人に一人が寝たきり要介護を経験するのです。寝たきり要介護期間の平均も5年7ヵ月にもなっています。もう他所事ではないのです。ぜひ、皆さんにテンポラリーアビリティという意識を持ってほしいと思います。
 バリアフリーという言葉はよく聞かれることと思います。段差を無くして、スロープを造って…というようなことだけがバリアフリーだと思ったら大間違いです。これはほんの一部なんです。一番大切なのは、ハードではなく心のバリアフリーなんです。介護するものとされるものが共に調和して暮らし合い、私達と私達の子供を守り、自分達の老いで子供達を泣かさない社会を創るんだという危機管理意識を持つことが本当のバリアフリーということなんです。皆様方の中で、心のバリアフリーというものが、名古屋の地で大きく育ちますことをお祈りいたします。
春山 満氏 プロフィール
●昭和29年に大阪で生まれる。●20代半ばで突然襲った進行性筋ジストロフィーのため、首から下の運動機能を全廃。●徐々に筋力がなくなっていくという地獄のような闘病生活の中で、自らをモニターにし、身障者としての発想や視点を福祉ビジネスに活かし、「ハンディーネットワークインターナショナル」を設立。●現在、介護用食事テーブルなどのオリジナル商品の開発を始め、大企業や自治体へのコンサルティングを行う。